立会場閉鎖寸前のニューヨーク証券取引所。
REUTERS/Lucas Jackson
国際通貨基金(IMF)は4月15日、定例の「世界経済見通し」を公表した。今回はフルバージョンが5月まで明らかにならず、公開されたのは、世界経済の現状と展望として政策対応などを俯瞰した第1章だけだった。
しかし、その第1章のタイトル「グレート・ロックダウン(The Great Lockdown)」は世界の現状を雄弁に物語っている。
ヘッドラインで大々的に取り上げられているように、今回示された2020年の予測値は-3.0%と、1月公表の見通しから-6.3%ポイントというきわめて大きな下方修正になった。
数字の仕上がりとしてはリーマンショックを超え、世界大恐慌(1929年)以来の悪化となることを、ゲオルギエバIMF専務理事も強調している。
なお、シナリオは年内に感染が封じ込められることをベースとしていて、2021年は+6%とV字回復の軌道を描くと想定されている。
新型コロナウイルスの感染終息時期を含め、希望的観測に過ぎるとの声もある。けれども、こうしたシナリオを描くこと自体は不可抗力であろう。先行きが誰にもわからない以上、多くの人々が希望しそうな前提を置く以外に手段はないだろう。
むしろ、いまわれわれが経験している状況が本当に「大恐慌の再来」だとするなら、金融機関の破たんなどを懸念するシステミックなリスクへの警戒が高まっていないことは不幸中の幸いとも言える。その点については、「世界経済見通し」と同時期に公表される「国際金融安定報告書」に詳しいので、興味のある方はぜひ一読をおすすめする。
リーマンショック後、金融機関は収益性を落としたものの、それを代償として頑健になった。その取り組みがいまのところは奏功している。もっとも、これから銀行部門に降りかかる与信コストの悪化を踏まえると、「いまのところは」と付言せざるを得ないこともIMFは指摘している。
世界の90%がマイナス成長を経験
「世界経済見通し」に話を戻そう。
先進国および途上国を取り巻く経済情勢がコロナショック前後でいかに断絶してしまったのかを明示するのが下の【図表1】。1月と4月について、先進国と途上国のGDP成長率予測の変化を表したものだ。
通常、景気循環に突然「溝」や「谷」が発生することはないが、この図表でははっきりとそれを視認できる。GDPがこのような軌道を描くのは、需給両面から経済を窒息させる戦争のときくらいだろう。
なお、すでにコロナショックをリーマンショック以上の危機として評価する向きも珍しくない。
下の【図表2】は、今回のコロナショックとリーマンショックで、それぞれマイナス成長に陥った国の割合(右側の縦軸)を示している。
両者の違いは鮮明だ。リーマンショックの際は世界の60%程度の国がマイナス成長になったが、コロナショックでは90%程度の国がマイナス成長を経験することになる。
つまり、地球規模で経済が縮小するのが2020年、コロナショックの実相ということだ。
分岐する3つのストレスシナリオ
国際通貨基金(IMF)のゲオルギエバ専務理事。2020年1月の世界経済フォーラム(ダボス会議)にて。
REUTERS/Denis Balibouse
冒頭述べたように、今回の「世界経済見通し」は2020年後半にかけてコロナ感染が終息し、2021年にはV字回復するのが前提となっている。それゆえ、巷(ちまた)では「-3%は楽観的に過ぎる」との声も聞く。
しかし、元凶が未知のウイルスである以上、見通しには当然複数シナリオの提示が必要で、実際にそうした体裁がとられている。
見通しにはボックス欄が設けられ「新型コロナウイルス感染症との闘いで考えうる別の展開(Alternative Evolutions in the Fight against COVID-19)」と題し、分岐するシナリオもしっかり提示されている。
具体的には、
- 2020年において感染抑制策のためにかかる時間が(基本シナリオ対比)約50%伸びる
- 2021年においてマイルドな(基本シナリオ対比で3分の2程度の)感染拡大の第2波が到来
- 2020年の感染抑制策に時間がかかり、なおかつ2021年に感染拡大の第二波が到来する
という3つの代替シナリオが提示されている(リスクシナリオとは書いていないので、IMFとしては相応にあり得るシナリオと考えているのかもしれない)。
いずれのシナリオについても、各国国債の利回り上昇から金融環境が引き締まり、政策当局が一段の対応を迫られることが想定されている。その結果、生産性の上昇率が抑制され、失業率も上昇することが警戒されるとの分析が披露されている。
基本シナリオとの対比では、それぞれ以下のような展開が想定される。
- 2020年について-3%下振れする
- 2021年について-5%下振れする
- 2021年について-8%下振れする
シナリオの方向感や水準感が感染封じ込めの具合いによって規定される以上、このように多面的なシナリオを提示するのは合理的だ。ちなみに、これらの代替シナリオでは、途上国のほうが財政余地の乏しさなどから下支え策に限界があり、傷跡は大きくなるという言及もあった。
この代替シナリオ以外の分析でも、感染拡大が長期化すれば「金融システムのバックストップとしての中央銀行の限界が試され、政府の債務負担も増す」との懸念が示されており、とくに早い段階でほとんどのカードを切ってしまった欧米中銀への懸念が見え隠れする。
くり返しになるが、IMFは決して楽観的な見通しを抱いているのではなく、「ウイルス感染拡大が2020年後半に終息」という前提のもと、ありそうなストーリーを主軸に語っているだけであって、それ以外のシナリオを無視しているわけではない。
想像を巡らせてみてほしい。もしIMFが 3.のシナリオをメインとした見通しを出していたら、それはそれで議論を醸したのではないか。感染抑制に時間がかかり、2021年も第2波がやって来ることが前提とされたら、東京五輪関連を含めたたくさんのステークホルダーの判断に大きな影響を及ぼす。IMFはそうしたことも視野に入れねばならなかったはずだ。
「コロナショックの傷跡」は欧州で深く
なお、悲観一色とも言える今回の見通しにおいても、国・地域ごとには相応の差が見てとれる。
日米欧三極のなかでは、欧州の相対的なダメージの大きさが目立つ。
今回の見通しにおける2020年と2021年の成長率予測について、1月見通しからの修正幅を比較すると、以下のようになる。
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ちなみに、日本は消費増税により2019年10~12月期にすでに大きな落ち込みを経験しており、その反動によって2020年のマイナス幅が押さえられている面も差し引く必要がある。
おそらく、2020年につける谷が深い分、2021年につける山も高くなるので、両年を合計した数字を「コロナショックの傷跡」と見なすことで、コロナショックを経た各国の立ち位置を見やすくできるかもしれない。横並びで比較したのが下の【図表3】だ。
世界経済の負う傷跡は-3.9%ポイント。これより軽傷で済むのは日本(-3.4%ポイント)だけとなる。ただし、上述したように消費増税ショックの反動がなければ、日本もそれ以上の傷跡になっていた疑いは強い。
かたや欧州とりわけユーロ圏の傷跡は深い。意外感はないが、感染拡大が深刻でしかも政府部門の財政余力に余裕がなさそうなイタリアやスペインといった国の落ち込みはとりわけ大きい。
ポストコロナの世界では、おそらく未曽有の政策対応の副作用でバブルに似た経済・金融情勢が到来するのではないかと察する。そうした状況下、各国は緩和措置を果断に巻き戻そうという姿勢を見せるだろう。しかし、欧州は世界のそうした動きに劣後する可能性が高い。
3月以降、欧州中央銀行(ECB)は原理原則を反故(ほご)にした上で、特定国の国債に入れ込んでしまっている。その措置を抜き取る作業も相当な慎重さが必要になってくることは間違いない。
ユーロ圏に関するこうした現状と展望を踏まえると、つねに「相手がある話」の為替市場においては、ユーロを敬遠する動きにつながるのではないか。
※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。
唐鎌大輔(からかま・だいすけ):慶應義塾大学卒業後、日本貿易振興機構、日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局に出向。2008年10月からみずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)でチーフマーケット・エコノミストを務める。
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April 20, 2020 at 09:02AM
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IMF、世界経済見通しを公表。もし「2021年にV字回復」しても欧州には深い傷跡残る - Business Insider Japan
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