新型コロナウイルス感染防止の取り組みの下、人出が増えているのが食品スーパーだ
都内で在宅勤務中の女性会社員は夫へのいらだちを募らせている。同じく在宅勤務の夫は頻繁に冷蔵庫を開けては「小腹がすいた」とモグモグ。3月あたまの子どもの休校開始以来、かさむ食費に「大きな子ども」の分が加わった。「3日に1度」と言い聞かせつつ、足はついつい近所のスーパーに向かいがち。外食費の減少が心の支えだが「4月の食費が恐怖です」。
■延びる在宅時間 増える食費
新型コロナウイルス対策のための休校やリモートワークが家計の姿を大きく変えている。光熱費、水道料金、トイレットペーパー代……家族の在宅時間増でかさむコストは少なくないが、筆頭格は食費だろう。4月7日発表の2月の家計調査で食費は約7万5000円と1年前から4.2%も増えた。4%強の伸びは7年ぶりの大きさだ。
こうなると注目されるのがおなじみ「エンゲル係数」。消費に占める食費の比率で算出され、貧しい家計は同比率が高いが、豊かになるにつれ低下するという「エンゲルの法則」が有名だ。生命維持に欠かせない食費は収入にかかわらず必要で、その比率が高いということは他の支出に回す余裕がない状態を示す。
世帯構成や生活習慣でも変化するため、単純な国際比較などにはなじまない面もあるが方向性はおおむね正しい。日本が経済大国になる軌跡でもほぼ法則通り。戦後間もない頃、60%台だったエンゲル係数はその後の経済成長と共に右肩下がりに。2000年代前半には20%台前半まで下落した。
■巣ごもり化で一段の上昇も
そのエンゲル係数が2月、34年ぶりの水準に跳ね上がった。2人以上の勤労者世帯の数値が25%台になったのは1986年以来のこと。あくまで単月の数字ではあるが、緊急事態宣言を受けた「巣ごもり」化を勘案すると通年でも一段の上昇がありうる。三十有余年の経済成長を巻き戻すほど家計は「貧しく」なったのか?
実はエンゲル係数は数年前にも話題になった。グラフをみると低位で安定推移していた数字が2010年代に入り、潮目が変わっているのが分かる。
背景にあるのが日本の世帯を巡る変化だ。高齢化や単身化が進めば、分母を形成する所得は頭打ちとなり、結果的に食費の比率は高くなりがち。専業主婦世帯に比べ共働き世帯では外食や中食、単価の高い加工食品の購買頻度が高く、分子となる食費を押し上げる。15~16年の急上昇時には円安による食品の輸入価格上昇も一因となった。
■複合要因に加わるコロナの重荷
そこに今回、コロナ禍が加わった。まだ在宅勤務による食費増を嘆いていられるうちはご愛嬌(あいきょう)。自営業やフリーランスでは3、4月の収入が"蒸発"した世帯も少なくない。困窮する家計のエンゲル係数はいや応なく上がる。
日本の国内総生産(GDP)の約6割を占めるのは個人消費。そして食費は消費支出の4分の1を占める最も大きな塊だ。「貧しさ」を示す古い法則のリバイバル――。家計のきしみが発する異音に耳をすませ一刻も早いセーフティーネットの構築が必要だ。
1993年日本経済新聞社入社。証券部、テレビ東京、日経ヴェリタスなど「お金周り」の担当が長い。2020年1月からマネー編集センターのマネー・エディター。「1円単位の節約から1兆円単位のマーケットまで」をキャッチフレーズに幅広くカバーする。
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April 28, 2020
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新型コロナ:コロナが招く食費上昇 エンゲル係数、34年ぶり高水準 - 日本経済新聞
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