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デジタル経済に舵を切れ 「変われない日本企業」から脱却するために - ITmedia

 第2波が襲来する可能性はあるものの、国際的に見ればコロナウイルスの第1波を比較的抑えた日本。緊急事態宣言も解かれ、自粛が求められていた、都道府県をまたいだ全国の移動も6月19日に解禁された。

 コロナ禍の中で議論が巻き起こったのが「9月入学」の導入だ。今年度は見送りとなったものの、経済産業研究所前理事長で現在、新潟県立大学国際経済学部の中島厚志教授は「日本経済と企業の今後の在り方も問われるもので、見送りになったことは残念」だと語る。

 今回の9月入学見送りは、経済界にとってどんな意味を持つのか。コロナ後の世界で企業が取り組むべきこととは――。中島教授に真意を聞いた。

photo 中島厚志(なかじま あつし)新潟県立大学国際経済学部教授。独立行政法人経済産業研究所前理事長。1952年生まれ。75年東京大学法学部卒業後、日本興業銀行入行。パリ支店長、パリ興銀社長、執行役員調査部長、みずほ総合研究所専務執行役員調査本部長などを歴任し、2011年経済産業研究所理事長、20年より現職。主な著書に『大過剰 ヒト・モノ・カネ・エネルギーが世界を飲み込む』(日本経済新聞出版社)、『統計で読み解く日本経済 最強の成長戦略』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など

9月入学見送りが意味するもの

――新型コロナウイルスの影響による休校の長期化を受けて、「9月入学」の導入の是非について関心が高まりました。どのように見ていましたか?

 人生100年時代を迎えるのに合わせて、政府はいま、そのための制度設計を進めています。高齢者から若者まで全ての人が活躍し続けられる社会を作る必要があるとして、教育の無償化、大学改革、リカレント教育に加えて高齢者雇用促進などが推進されていますね。

 私は同じことが義務教育においてもいえると考えていて、「義務教育の就学期間を伸ばすべき」だというのが持論です。現在の9年間の義務教育年限は1947年、つまり70年前に定められたもので、そのときの平均寿命は60歳未満でした。昔は「人生60年」だと考えられていましたが、今後「人生100年」になるのであれば、もっと教育の期間が長くてしかるべきだと思うのです。

――確かに60年の人生と100年の人生では、教育の期間を変えるのは当たり前ですね。

 なぜそう考えるかというと、各国の「平均就学年数」と「1人当たりの国民所得」との間には明らかに正の相関関係があるからです。しかも、就学年数が延びると、所得が就学年数の伸び以上に大きく増える関係にあるのです。ちなみに、日本の平均就学年数は12.8年ですが、あと1年延びれば、1人当たりの国民所得は平均的に3割ほど増える計算になります。あと2年延ばせば1人当たりの国民所得は8割増加し、世界でもトップクラスの所得(6万ドル程度)になるという計算になります。

photo 「平均就学年数」と「1人当たりの国民所得」との間には正の相関関係がある(国際連合の資料を基に中島厚志教授作成)

 また、それほど明確ではないのですが、就学年数が長くなると所得格差が縮小するような傾向もうかがえます。つまり人材の高度化は、国民が豊かになると同時に所得格差を縮める可能性があるといえるのです。

photo 就学年数が長くなると所得格差が縮小するような傾向もうかがえる(国際連合、世界銀行の資料を基に中島厚志教授作成、編注:GINI係数とは主に社会における所得の不平等さを測る指標)

――義務教育の延長と9月入学導入の間には、どのような関係があるのでしょうか。

 9月入学を始めるにあたり、義務教育の開始を半年早めて5歳半から始めてはどうかというアイデアが出てきました。私は就学年数を延ばすことが重要だと考えていますから、「これはいい考えだ」と思いました。

 義務教育を早めることにデメリットはあまりないはずです。また、これに合わせて、義務教育と、大学での専門教育を1年間ずつ延ばし、トータルの就学年数を延ばせば高度な人材を育成することもできますね。主要国では大学院に進学する人が増えている一方、そうではない日本の相対的な競争力は落ちています。主要国の求人を見ると修士以上を要件とする企業もありますし、国際機関の中には職種によっては文系でも博士号取得者しか採用しないところもあります。これが世界の現実です。日本も従来以上にしっかりとした教育をしないと世界の中では戦えません。

 翻って日本の状況を見渡せば、コロナの対応で極めて多額の予算が付きましたし、国民全体に危機感もある。私はこういう例外的なことが起きている今こそ9月入学を導入し、教育全体の制度設計を変える千載一遇のチャンスだと考えたのです。導入に当たってはもちろん、教員の数が足りない、施設も十分ではない、待機児童が増える……こういった問題がでてくるのは承知しています。

 ですが、実際には国家予算の2倍以上、合計200兆円以上の補正予算がついて、国民にこれからの生活、経済そして時代にまでわたる危機感や不安感が高まっても9月入学は実現されませんでした。予算も国民の危機感もあった状況の中で変えられないのなら、平時で変えるのは無理でしょう。今が比類のない危機だからこそ、戦略を持って変革を実現してほしかったと悔やまれます。

photo 新型コロナウイルスへの対応策として200兆円以上の補正予算がついたものの、9月入学は実現されなかった(写真提供:ロイター)

デジタル経済に舵を切れ

――9月入学が実現した場合、企業の新卒採用の方法にも変化が生まれ、企業の在り方や働き方にも影響してきそうです。

 今後、企業のビジネスの方向は「非対面」、つまり「デジタル経済」がより重視されることがはっきりしました。デジタル経済と言うのはデータが重要ですから、デジタル経済に進むことはデータを活用することと同義になります。私が長年住んでいたフランスでは、銀行のキャッシュカードの決済履歴のデータを匿名化した上で、政府が日次の経済分析に役立て、政策立案に戦略的に利用しています。国が主導したシステムを使い、国民の消費のパターンをビッグデータによってリアルタイムで把握しているのです。

photo フランスでは、銀行のキャッシュカードの決済履歴のデータを匿名化した上で、政府が日次の経済分析に役立て、政策立案に戦略的に利用している(エマニュエル・マクロン大統領、写真提供:ロイター)

 一方で日本では個人情報保護法などが壁となって、データの活用がなかなか難しい状況にありますね。従来の間接金融業務だけでは経営的に厳しくなるといわれている地方銀行ですらこういったデータを利用できていないと聞きます。決済データはリアルタイムに県内で何が起こっているのかが分かる「宝の山」です。もちろんデータの匿名化などは必要ですが、地銀が利用目的をはっきりさせた上で宝の山を使えるようになれば、地方創生にも大いに役立つはずです。

 個人情報の問題は承知していますが、今やスマホを使えばその人の行動履歴に基づいてターゲッティング広告が表示されます。データを活用する取り組みがあって初めてデジタル経済が進むのです。

――デジタル化という意味では、テレワークを始めた企業も以前よりは増えてきました。

 経済協力開発機構(OECD)の調査によると、OECD加盟国の中で日本企業はPCの利用率が平均よりも低い部類に入っています。ただし、PCを使うことができる人の割合は平均よりも高いのです。ここから推測できるのは、企業のPC導入率が低いということです。昔ながらの紙ベースの仕事スタイルから離れられず、デジタル化や効率化を進められない企業の姿が見えます。 

 もしテレワークが思った以上に浸透しなかった場合は、政府が強制力を以てテレワークを導入せざるを得ないようにしてでも推進した方がよいかもしれません。強制されなくても、働き方改革が叫ばれているのですから、中小の事業者の中でも変化に対応する企業は勝ち組になりますし、対応しない企業は淘汰されていきます。

――ただ中小企業がテレワークを進めるのはハードルも高いですね。

 今まではテレワークのシステム構築というとオーダーメイド、個別見積もりが一般的で高額でしたが、今は一律数十万円で請け負うという企業も出てきています。中小企業でも容易に導入できるんです。

 テレワークが進みオフィス面積を小さくできれば企業は固定費を減らせます。同時に高い人件費も減らせるかもしれない。経理・総務もクラウドでできる仕組みを取り入れてペーパーレスをさらに進めれば、経理・総務社員の負担も減らせる。ソフトを使えば自宅にいても伝票を処理できますし、ハンコも電子決済の仕組みがあるわけですから要りませんね。これからの時代は、デジタル化をしないと企業が持たない。企業規模にかかわらず、状況に対応した企業だけが生き残るということを見逃してはいけません。まして今回のような危機があればなおさらです。

photo テレワークのシステム構築を数十万円で請け負う企業も出てきている(写真提供:ロイター)

テレワークは地方創生にプラス

――新型コロナの影響によってセミナーもオンラインで開催される「オンラインセミナー」の形態を取ることが増えました。

 オンラインでの取り組みによってこれまで知名度がなかった企業が躍進する事例も出てくるでしょう。逆に、これまで立派な会場や熟練したスタッフを擁し、対面でのセミナーに強みを発揮してきた大手の企業には逆風が吹く可能性すらあります。同様に展示会の在り方自体も変わってきそうです。この転機をどう捉えて生かすかを考えなければなりません。

――オフィスが減っていく動きが加速すれば不動産価値への影響も考えられます。

 フランスのネット不動産仲介会社SeLoger社が公表した3月末のデータでは、一戸建ての価格上昇率がアパートを上回りました。同社は、新型コロナの影響で人々が人口密度の高い街の中心部よりも郊外への居住を選択していることや、テレワーク化の影響で通勤距離を今ほどには重視しなくなっていると言及しています。このような傾向が日本でも起きれば、都心回帰が起きている日本でも郊外一戸建て住宅が相対的に見直される可能性につながります。 

 確かにテレワークをするのであれば、人口が密集して感染リスクが高まる都市の中心部にわざわざ住む必要はないのです。これは、地方創生と言う意味でもプラスになるでしょう。

photo  フランスでは、一戸建ての価格上昇率がアパートを上回った(ネット不動産仲介会社SeLoger社のデータを基に中島厚志教授作成)

――オフィス需要が減り、都心から地方へと人が流れていった場合、どのような変化が起こるのでしょうか?

 郊外に住む人が増える一方で、都心も職住近接が普通になっていく可能性もあります。パリ一番の目抜き通りのシャンゼリゼ通りでは、建物の上階は居住スペースになっていて、実は人が住んでいるのです。東京の都心でも職住近接を実現したおしゃれなビルなどが、10〜20年という時間を掛けて建設されていくかもしれません。

 重要なのは、デジタル経済化でオフィス縮小やコスト削減を実現し、企業の生産性を上げるという視点です。賃金が相対的に安い非正規をたくさん雇う経営の在り方は格差を拡大させます。米国では暴動も起こっていますね。そうではなく、社員の賃金を上げ、より少ない人で効率の良い働き方にすることが大事なのです。そのおおもととなるのは人材であり、やはり冒頭で申し上げたように教育ということになるわけです。時代が激変しているのに70年前と同じ教育制度であっていいはずがありません。

photo 米国の暴動の背後には経済的な格差による「不満」と「怒り」が横たわっている(写真提供:ロイター)

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June 29, 2020 at 05:15AM
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