第一生命経済研究所・主任エコノミスト・藤代宏一氏
いま日本が直面している政治・経済の問題について、改めて過去から学ぶ点は多いのではないでしょうか。今回私がご紹介する2冊はどちらも数十年前の事例を扱ったものですが、今なお変わらぬ教訓を私たちに与えてくれます。
新型コロナの対策を巡る一連の議論のなかで「日本政府も米国などのように強い権力で国民活動をコントロールすべきだ」との主張をよく耳にします。罰則を伴う外出規制や、企業の強制的な営業休止とその補償を求めているわけです。しかし日本には罰則や強制力の根拠となる法律がなく、それには歴史的な経緯があるのです。
中村隆英著
筑摩書房
そのことを教えてくれるのが、中村隆英・元東京大学教授の『日本の経済統制』(筑摩書房)です。日本が戦争に突き進んでいく過程で政府の力が大きくなり、民間活動への統制を強めていったメカニズムを詳述しています。戦時の国家総動員法など、強権的な政策への反省が憲法を通じて今の立法制度にも生きていると分かります。
コロナの感染拡大前に求められてきた、規制緩和など「弱い政府」はある意味で平和の裏返しでもあるのです。非常事態下でも、政府に強大な強制力を与えることを本当に求めるべきなのか、歴史を知れば一歩引いた視点から考えることができるでしょう。
ルワンダ中央銀行総裁日記 増補版・服部正也著
中央公論新社
2冊目は、アフリカのルワンダで中銀総裁を務めた服部正也氏の『ルワンダ中央銀行総裁日記』(中央公論新社)です。この本の魅力は、読み物として純粋にストーリーが面白いという点です。そもそも日本人がアフリカで中銀総裁をやっていたことを知る人は案外少ないでしょう。「すごい日本人がいたもんだ」と驚かされます。
服部氏は国際通貨基金(IMF)の依頼でルワンダの中銀総裁に就くのですが、金融政策をほとんどゼロから作り上げます。注力したのが、同国の主要産業である農業を知ること。コーヒーの出荷の仕組みやその価格動向といった事情を知ることが金融政策を決める上で不可欠と考えたからです。
日本の中央銀行に視点を戻すと、私はかねがね、産業界の出身者が必ず日銀の審議委員に名を連ねているのを不思議に思っていました。実務経験はあっても金融に関しては門外漢の彼らがいかに政策立案に携わるのか、図りかねていたのです。この本を読むと、実体経済への理解を抜きにして金融政策を決めることはできないと分かります。実際に企業経営に関わった立場だからこそ見えることもあるのです。
例えば輸出産業が経済の中心である日本では、円安進行はとかく良いものだと考えられがちです。しかし実務の面からみれば、為替相場での大きすぎる変動率はビジネスにとって好ましくありません。金融業界にどっぷりつかった人だけでは、誤った政策決定をしてしまうリスクがあります。
いまの日銀は、国内長期金利の0.1%程度の上下に神経をとがらせます。国民が肌で感じる経済からは遠ざかってしまっているのではないでしょうか。実務経験者の目は今こそ求められている、ルワンダでの日本人の奮闘はそう教えてくれています。
(聞き手は井口耕佑)
[日経ヴェリタス2020年5月3日付]
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May 01, 2020
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