【ワシントン=河浪武史】米労働市場の前例のない悪化スピードに、経済政策の執行が追いつかない。米当局は16日、中小企業の雇用維持に使う3500億ドル分の融資枠が早々に上限に達したと明らかにした。政府資金の供給も一時ストップし、新型コロナウイルスによる混乱が深まりかねない。与野党は追加資金を巡って神経戦を繰り広げており、政治の混乱が経済活動を妨げ始めた。
トランプ政権は3月13日に非常事態宣言を発令。同27日には2兆ドルという過去最大の経済対策を決定した。柱の1つは中小企業(従業員500人以下)の雇用維持策で、3500億ドルの融資枠をつくって給与の支払いを肩代わりできるようにした。一時解雇した人員を再雇用しても補助を受け取ることが可能で、ムニューシン財務長官は「これで全米の5割を占める中小企業の雇用は維持できる」と主張した。
ただ、全米で飲食店などの営業が大幅に制限され、4月4日の受け付け開始から中小企業の利用申請が殺到。所管の中小企業局は16日、3500億ドルの融資枠が早くも上限に達したと明らかにした。当面は中小企業に政府資金が供給できなくなり、運転資金が確保できない企業の人員削減が一段と進むリスクもある。
トランプ政権は既に米議会に資金増額を要請している。ムニューシン財務長官と共和党の上院トップ、マコネル院内総務は資金枠をさらに2500億ドル積み増して6000億ドルとする方針で一致。共和党が多数派の上院では1週間前の9日にも可決する構えで調整に入っていた。
ただ、野党・民主党は「企業だけでなく医療施設や地方政府への資金供給も積み増すべきだ」(ペロシ下院議長)と政府補助の大幅な増額を要求。雇用の急激な悪化を横目に、与野党の協議は時間がかかっている。米国は11月に大統領選・連邦議会選を控えており、新型コロナ問題が政争の具となり始めている。
トランプ政権は経済の落ち込みに焦りを強めており、5月を前に経済活動を部分再開できるよう動き出した。今回の中小企業の給与補填は8週間が上限だ。3月中旬から始まった事業停止が2カ月を超えれば、企業の人員削減が止まらなくなる。20年の米財政赤字はこのままでも過去最大の3兆ドル規模に膨張しそうだ。一段の財政悪化に目をつむって雇用対策を積み増すぎりぎりの判断を迫られることになる。
米議会予算局(CBO)は4~6月期の経済成長率は前期比年率換算で28%を超すマイナス成長と予測する。15日公表した3月の小売売上高は8.7%減となり、1992年の統計開始以来、最大のマイナス幅となった。鉱工業生産指数も第2次世界大戦直後の1946年以来、74年ぶりという歴史的な下げ幅だ。
経済封鎖という過去例のない事態に、景気悪化のスピードも想定を超す。4月の失業率は10%を超えて、戦後最悪の水準となる可能性もある。3月中旬からの4週間で、失業保険の申請件数が2200万件を超えた。米労働力人口は1億6300万人で、8人に1人が離職した計算になる。
ただ、生活者の「自宅消費」によって、食品量販店やドラッグストア、ネット通販などは売り上げが増え、各チェーンが1万人単位で雇用を積み増す動きもある。経済の急停止には政策執行の一段のスピードが求められるが、民間活力を引き出す仕組みも必要だ。
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April 19, 2020 at 06:01AM
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米雇用対策はや資金枯渇 3500億ドル分、議会の対応遅れ - 日本経済新聞
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