NetIBNewsでは先日、福岡市東区の分譲マンション(以下、Kマンション)の建物傾斜問題、そして構造計算における柱梁接合部の検討の省略という設計問題について報じた(福岡市東区の傾斜マンション、構造計算にも問題あり!)。同記事に対し、大きな反響があり、ほかのマンションの方からも、マンション販売会社に対する不信感などについての意見が何件も寄せられた。前回インタビューに応じてくれたAが再度インタビューに応じてくれたので掲載する。
――前回、Kマンションの構造スリットのことにも触れていましたが、西鉄からの回答のなかでも「構造スリットの未施工があれば真摯に対応する」とありました。構造スリットの未施工という事例は多いのでしょうか?
A氏 前回も話したように、構造スリットが図面通りに施工されていない事例は非常に数多くあります。クラックなどの現象が現れないとスリットの未施工が判明しないので、潜在的には相当な数に上ると思います。全国的に構造スリットの調査を手がけている方の話も伺ったことがありますが、私が考えていたよりも多くの未施工の事例があり、手抜きの度合いも悪質だということです。
構造スリットの未施工は完全に施工の問題であり、構造スリットが施工されていないことにより、地震の際に柱が破壊されるなど耐震強度に大きな影響を及ぼし、居住者の避難に支障を来たすことも起こり得ます。
西鉄の「未施工があれば対応する」という回答は、構造スリットの未施工が潜在的に存在していることを認識しているからではないかと思われますが、構造スリットの未施工が引き起こす事の重大さは、これまで説明した構造の違法問題と比較にならないほどの大問題です。
――横浜の傾斜したマンションでは、早い段階で三井不動産レジデンシャルが建替えの方針を表明し、建替え工事が進んでいるといいます。
A氏 マンションブランドを守るためにも三井不動産レジデンシャルの対応は正しかったし、世間の評価を上げたと思います。建替え費用は、三井不動産とゼネコン・杭業者との間で話し合えば良いのであり、被害者である区分所有者は 本来の資産価値どおりのマンションに建て替えられれば納得する話です。
しかし、区分所有者が団結してデベロッパーに立ち向かうことのハードルが高い現状では、デベロッパーは区分所有者を無視した傲慢な対応となるのではないでしょうか。
――Kマンションの場合、竣工から25年を経過しており、除斥期間という時効のようなものの壁がありますが・・・。
A氏 マンションに何か不具合があり、20年以上の年数を経過していれば、時効や除斥期間などにより 区分所有者を不利な状況にさせることが多いですね。20年以内であっても、デベロッパーは不具合があっても、「建築確認や完了検査を受けている」と主張し、裁判所もそれ以上追及しようとしません。
このような状況を見るにつけ、我が国は「加害者ファースト」だと思います。先ほど、豊洲市場の話をされましたが、それこそ加害者ファーストです。小池都知事が掲げた「都民ファースト」と対極的な言葉だと思います。
――裁判が「加害者ファースト」であれば、マンションの区分所有者は、マンション販売会社を相手に どういう行動を起こすべきと考えられますか?
A氏 裁判が全て加害者ファーストというわけではなく、デベロッパーやゼネコン、建築確認の審査において見落としをした確認検査機関に賠償を命じた判決もあります。しかし、全体的には加害者ファーストの状態となっているので、視点を変えて、世論を味方にすべきではないでしょうか?いわば、世論が法廷となるのです。消費者である区分所有者の痛みを感じようともしない理不尽な企業に対しては、世論がジャッジを示すべきです。世論の鉄槌を下さなければ、悪質な企業は消費者を犠牲にした金儲けを続けることでしょう。
――除斥期間が過ぎたマンションも世論に訴えるべきですか?
A氏 私は法律の専門家ではないので、法律的にどういう扱いになるか断定的なことは言えません。しかし、そのマンション販売会社が現在も分譲を続けているのであれば、わざわざ不誠実な会社からマンションを購入する必要はありません。マンションを選ぶのは消費者ですから、不誠実なマンション業者を世間に知らせた方がいいと思います。それが結果的に区分所有者にとって良い結果となるのではないでしょうか。
――前回、今回と、構造設計の内幕を語っていただきました。構造設計を担当された立場で区分所有者から非難を受ける可能性があるにもかかわらず、なぜ、自分の身を削ってまで、取材に応じてくれたのですか?
A氏 区分所有者からの非難があれば甘んじて受けるつもりです。この問題に関して、マンションを購入した区分所有者には何の非もありません。構造設計者はもちろんですが、マンション販売会社や建築確認検査機関・行政庁など関わった全ての者が責任を果たすべきです。自分の傷口を開いてでも私なりに区分所有者に協力したいという気持ちです。
区分所有者は、デベロッパーと比べて立場が弱く、これまで泣き寝入りせざるを得ないケースが多かったと思います。建築設計に携わってきた者として、区分所有者に寄り添って力になれればと思い、取材を受けました。過去の設計ミスはミスとして、マンションの区分所有者のために、私の経験・知識を提供するつもりでいます。
(了)
【桑野 健介】
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March 17, 2020 at 04:30AM
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